第5話 リンダの過去・・・をちょっとだけ
「上手くできるといいけど・・・。」
「う~ん・・・」
「見た目は合格かな。」
「ここですね。」
「どうもありがとう。」
「何だか緊張しちゃうな・・・。」
「あら、よく来たわね、さ、入って。」
「お邪魔します。」
「今日はお招き頂いてありがとうございます。」
「そんな固い事言わないの。」
「あの、これ、上手くできてるかわからないけど・・・」
「あら、この匂いはアップルパイね?お茶にしましょうか。」
「はい。」
「あら、何これ、とっても美味しいじゃないの。」
「よかった~。」
「とっても上品なお味で、何だかあなたみたいね。」
「・・・へへへ。」
「今日来てもらったのはね・・・」
「あなた、新作の方はどうなってるの?」
「・・・新作・・・ですか・・・。」
「当たり前じゃないの、引越しの方もだいぶ落ち着いたでしょ?」
「・・・えぇ。」
「じゃ、早いとこ取り掛かっちゃいなさいな。」
「それが・・・難しいところでして・・・。」
「あんな本が書けるんだから大丈夫よ。」
「・・・でもね、あの本は本当にたまたま書いてみただけなんです。」
「たまたまであんな本が書ける訳ないじゃない。」
「・・・昔から本を読むのは好きでしたけど・・・。」
「あら、ほんとに何だか訳アリって感じなのね。」
「・・・。」
「そうよね、だってあなた・・・『秘密の公園で』だったかしら、あの本だって・・・」
「・・・?」
「大恋愛の大失恋って感じだものね。」
「・・・。」
「それで引っ越してきたんでしょ?区切りつけるために。」
「・・・そう・・・なんです。」
「やっぱり・・・あなたもずいぶん辛かったのね。」
「・・・。」
「でも・・・もう吹っ切りました。」
「それはいい事だわ、いつまでもウジウジしてたって始まらないものね。」
「始まるのかな・・・。」
「始まってくれなきゃ困るのよ・・・何を好き好んでこんな面倒な事を始めたと思ってるの?」
「・・・?」
「あら、こっちの話だったわ、ほほほ。」
「あなたってね、若い頃の私に似てるの。」
「そう・・・なんですか?」
「あら、馬鹿にして!私だって若い頃は凄かったんだから。」
「ふふふ。」
「まぁ、焦らずに気軽に短編でも書いてみたら?」
「実は・・・私もそのつもりで少しだけ考え始めてたんです。」
「あら、それはよかったわ。」
「上手く書けるかわからないけど・・・。」
「大丈夫よ、あなた才能あるもの。」
「そうかな・・・。」
「ほんとに・・・ツインブルックから来たってわりに遠慮がちな子なのね。」
「・・・。」
「今日はありがとうございました。」
「いいのよ、私こそ美味しいアップルパイ、ご馳走さまでした。」
「何だか・・・ちょっとやる気になってきました。」
「そうそう、その調子であっちの方も忘れずにね。」
「・・・あっち?」
「ほんとに鈍い子なんだから・・・。」
「ふふふ・・・ローズさんって・・・面白い人・・・。」
「・・・あっちの方・・・か・・・。」
「また・・・恋できるかな・・・」
「・・・できるかな・・・。」
「したい・・・?」
・・・プルルルルル・・・
「ん・・・?」
「・・・もしもし・・・あら、これはどうも・・・」
「・・・え?クリスさんの講演会ですか?」
「・・・もちろん・・・もちろん行きます。」