収穫
「な・・・!」
「何ですって!?」
「ですから・・・ご主人からの離婚通告です。」
「・・・一体どうして離婚なんてしなきゃいけないってのよ!」
「・・・心当たりがおありでしょう?」
「そんなもんある訳ないでしょ!失礼しちゃうわ!!」
「では・・・そのファイルをご覧になってみては・・・?」
「・・・そんな・・・」
「・・・残念な結果になってしまって・・・申し訳ないです・・・。」
「・・・いや・・・頼んだのはこっちだから・・・」
「・・・しかし・・・まさか・・・。」
少し前までは・・・
僕たちは・・・誰もが羨むカップルだったのに・・・。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
いつの間にか・・・
『・・・食事中にまで電話をいじらないといけないのか?』
『ごめんなさい、仕事の急用なの。』
『・・・まったく・・・感心しないよ。』
『ごめんって言ってるでしょ!』
『・・・おや、帰ったのか?遅かったね。』
『・・・。』
『お父様は鈍過ぎるのよ。』
『・・・カサンドラ!何て事を言うのよ!?』
『ベラ・・・!そこに居るのかい?』
『・・・ごめんなさい・・・ちょっと疲れちゃって・・・』
『どうしても・・・ゆっくりお湯に浸かりたいの・・・。』
『・・・。』
「・・・何これ・・・!?」
「・・・何なのよ!?隠れてコソコソ調査してた訳!?最低ね!!」
「・・・ゴホン。ご主人は離婚に応じてくれるなら、財産の半分を譲ると言っています、寛容にも。」
「離婚裁判に、という話でしたら婚前契約通り、不貞を働いた方の財産没収です。」
「はぁ!?何よ・・・そんな・・・そんな勝手な話・・・!!」
「こんな陰気な貴族趣味の家なんか・・・出て行ってやるんだから!!」
元々は・・・不本意ながら依頼した調査だったのです。
でも・・・さすがに風呂場にまで電話を持ち込む妻を見て、何も思わないほど鈍い男ではありません。
・・・それが・・・まさかこんな事になるなんて・・・。
「・・・アタタ・・・。」
「大丈夫ですか・・・?体調が悪そうですね・・・。」
「・・・最近・・・どうも駄目なんだよ・・。」
「ストレスで胃がやられたのかもしれません。早めに病院に行かれた方が・・・。」
そんな訳あって、訪れた病院で・・・
現れた白衣の天使・・・。
妻の不貞調査をしておきながら・・・
もちろん、許される事ではないのはわかっていました。
だけど、彼女の優しさに触れるうちに・・・
どんどん惹かれていった・・・というのが本音です。
そして・・・
あの夜の一件・・・。
彼女が怒る気持ちも理解できます。
ほとんど崩壊しかけだとは言え、私には妻が居るのですから・・・。
「それで・・・あの人は・・・?」
「片が付くまで山で静養されるそうです。」
「・・・体調悪いって言ってたっけ・・・。」
「・・・え?」
「だから・・・」
「ベラさんに泣きつかれちゃってさ、私もナンシーも参った参った・・・。」
「・・・そうなの?」
「あぁ、離婚したってよ。」
「・・・え?」
「聞こえてただろ?離婚だよ離婚。どうやらベラさんが相当遊んでたらしいな。」
「まぁ、モティマーくんも・・・
いつから出来てたのか知らないけど、今のところキャリーの話題は出てないよ。」
「とりあえずキャリーは一安心みたいだな。
思っている以上に資産家の離婚騒動に巻き込まれるのは大変なんだぞ・・・?」
「・・・ねぇ・・・私たち、もう終わりにしましょ。」
「・・・何だって?」
「聞こえてたでしょ?もう私たち、終わりにしたいの。」
「・・・何でまた・・・そんな急な話・・・。」
「だって・・・わたし・・・もっと上を狙いたいの。」
「ははは、相変わらず面白いお嬢さんだ。うちより上なんて、それこそゴス・・・」
「・・・ははは、まさかね。」
「そのまさか・・・だったら?」
「・・・おいおい・・・いくらなんでも・・・冗談だろう?」
「ね、だったら・・・奥さんと離婚してくれる?」
「・・・ははは・・・今日はずいぶん冗談が冴えるね!」
「本気なの!わたしだって・・・いつかは家庭を持ちたいもの。」
「・・・。」
「ほら!あなたは絶対に奥様と別れないでしょ?でも、わたしと別れてくれないなら・・・」
「それなら・・・とことん面倒な女になってやるんだから!」
「・・・まったく・・・面白いお嬢さんだ。・・・負けたよ。」
「・・・こんにちは。」
「・・・あぁ・・・こんにちは。」
「・・・どうしてるかなぁって思って・・・訪ねて来ちゃいました。」
「・・・。」
「お体の調子・・・どうですか?」
「・・・不思議なんだけどね。」
「・・・はい。」
「妻と別れた事には、全然堪えてない自分が居るんです。」
「・・・。」
「・・・だけど・・・キャリーさんにも・・・」
「・・・あの日言われた事をずっと考えていたんです。
・・・ようやく、理解できました。誰か他に・・・好きな人が居たんですね・・・?」
「・・・わたし・・・ランドグラーブさんと別れました。」
「・・・。」
『・・・悪いけど・・・もう一つ・・・頼みたいことがあるんだ・・・。』
「・・・それって・・・僕に何か関係ありますか・・・?」
「・・・。」
「・・・関係・・・ないですよね・・・。」
「・・・。」
「・・・あの・・・」
「・・・思ったより元気そうで安心しました・・・じゃ、わたし・・・そろそろバスの時間かな・・・。」
「・・・。」
「・・・キャリーさん・・・!」
「・・・。」
「俺・・・」
「・・・ダメだ・・・」
「モティマーさん!?」
「・・・うん・・・」
「・・・モティマーさん・・・?気が付きました・・・?」
「・・・あれ・・・?」
「・・・急に倒れちゃったからびっくりしたじゃないですか!
医務室があって良かったです。」
「・・ここの人に聞いたら、全然ご飯食べてないって・・・。」
「・・・。」
「・・・ずっと付いていてくれたんですか・・・?」
「・・・心配だったから・・・もうバスも終わっちゃったし・・・。」
「・・・明日の朝には帰ります。」
「・・・。」
「でも、ちゃんとご飯食べないとダメですよ!」
「これは主治医としての命令ですからね!・・・なんちゃって。」
「・・・。」
「・・・キャリーさん・・・」
「・・・だったら・・・ずっとそばに居てください。」