第1話 町に繰り出す
心地のいい海風が吹き渡る街、サンセットバレー。
この素敵な街に新しく引っ越して来たのはリンダという女の子。
「これでよしっと。」
引越しの片付けも一段落して、これからどうしようかという状況のようです。
「・・・さて。」
・・・と、そこへ一本の電話が・・・
「ん?誰だろう・・・もしもし・・・カーターです・・・」
「あ、先生!おはようございます。」
『おはようございます・・・えーっと・・・?』
「これから先生の担当をさせていただくロシナンテ出版の者です。どうも。」
「あら、これはどうも。よろしくお願いします。」
『いや~、いきなりの新人賞受賞、おめでとうございます。』
「いえ、ほんとにどうもありがとうございました。」
「で、早速なんですが書籍化に伴いまして2、3お聞きしときたいことがありましてね、今お時間大丈夫ですか?」
『えぇ、もちろん・・・。あの・・・すいません・・・さっきから気になってるんですけど・・・』
「何か?」
『あの・・・『先生』っていう呼び方なんですけど、私たまたま書いてみた作品で賞なんか頂いてしまって驚いているところなんです・・・。』
「なので『先生』なんて言われちゃうと・・・」
『何をおっしゃいますか。あんなぶっ飛んだ世界観を持ってらっしゃるんですから間違いなく一流の作家になれますって。』
「・・・ぶっ飛んでました・・・?」
『そりゃぁもう。あんなぶっ飛んだ金持ちの設定をねぇ、あんなリアルに書ける方はそうは居ないですから。』
「・・・フィクションなんですよ。」
『えぇ、そりゃもちろんそうでしょう。それにしても素晴らしい取材力ですなぁ。』
『・・・えぇ・・・まぁ・・・。』
『でね、先生の特質なんかをですね、ちょっとこう教えていただければと思いまして。』
「・・・特質ですか・・・?」
『ほら、本の最初によくあるでしょう?
プロフィールってやつですか?あれをね、ちょっと載せときたいなと思いまして。どうですかね?』
「・・・えぇ・・・わかりました。」
「で、特質の方なんですけど、やっぱりあれだけの物語を書けるってことは・・・
ずばり『完璧主義者』あたりが入ってるんじゃないかと思うんですけど、どうですか?」
『え、えぇ。そうです。完璧主義者。』
「やっぱり。しかもいきなりの新人賞受賞ってことですから・・・『幸運』だったりするんでしょうね?」
『・・・そうなんです。』
「そしてあんな情熱的な恋愛小説を書けるってことは・・・『誘惑的』だったりして?」
「・・・あの・・・??』
『あぁ、これは失礼、こっちの話でした。』
「・・・えぇ・・・。」
『で、好きな食べ物が『クッキー』・・・っと。わかりました。』
「・・・あの・・・好きな食べ物言ってませんけど・・・?」
『そうでしたっけ?まぁ、細かい事はいいじゃないですか。』
「ところで、引越しの方はもう落ち着かれましたか?」
『・・・えぇ。』
「サンセット・バレーには有名な作家さんがお住まいなのはご存知で?」
『いえ、まだ引っ越して来たばっかりで・・・』
「ブラッドショー先生とジェロッド先生がね、お住まいなんです。その街には。」
『え?ジェロッドさんがですか?』
『えぇ。お2人とも気さくな方ですからすぐに仲良くなれますよ。』
「わたしジェロッドさんの大ファンなんです。」
『今日は劇場で講演会やってるはずですから行かれてみてはいかがですか?』
「ついでに関係ないシム達もわらわら集まってきますし。あそこの劇場前には。」
『そうなんですか?』
「えぇ、もうそりゃぁ、わらわらと。」
「わらわら、わらわら集まって来ますって。挨拶がてらちょうどいいんじゃないですか。」
『そうですね。』
「でしょう。こっちは写真撮りにくいったらありゃしないんですけどね。」
『・・・はい?』
「いえ、こっちの話でした。まぁ、あれですよ、次回作もね、ドカーンとお願いしますよ。」
「・・・あの・・・ですから、たまたま書いてみた作品なので、次回作とかは考えていないんですけど・・・」
『じゃ、ま、そういう事でお願いしますね。』
「・・・もう・・・一方的なんだから・・・。
ん・・・でもちょっと出掛けてみようかな。ジェロッドさんに会えるかも・・・。」
次に向かった書店でも・・・
『こんにちは~。あら新しく越して来た人?』
『そうなんです。』
『ようこそサンセットバレーへ!』
「なんだか明るい街みたいでよかった。
やっぱり、ツインブルックとはちょっと違うみたい。」
「・・・え?もしかして・・・」
「・・・もしかして・・・」
「・・・ジェロッドさん・・・ですよね!?」
「そうそう、私がジェロッドよ。あなた新しく越して来た子でしょう?」
「えぇ・・・私、ジェロッドさんの大ファンなんです!!」
「ふふふ、それは嬉しい事を言ってくれるじゃないの。」
「まさかジェロッドさんにお会いできるなんて。」
「話を聞いていたのよ、有望な女流作家が引っ越して来るって。」
「さ、作家だなんて、まさか!」
「あら、でも上出来だったわよ?『秘密の公園で』だったかしら?」
「もう読んで下さったんですか?」
「もちろん、私もうかうかしてられないわね、こんな強力なライバルが出現しちゃったら。」
「まさか!!それに・・・たまたま書いてみた作品だったんです・・・ほんとにたまたま・・・。」
「ふふふ、若いって素敵ね。」
「しめしめ、ひっかかったわね。じゃ、あなたもやっぱりそうなんじゃない。」
「・・・そうなのかな。」
「とにかく、歓迎するわ。」
「ありがとうございます。」
「あなた、ツインブルックから越して来たって聞いたけど、それにしてはずいぶんおっとりしてるのね。」
「あら、チェス君、一体どうしちゃったの?ポーっとしちゃって。おばさんそんなにキレイかしら???」
「こんにちは。」
「僕、チェスターっていいます。」
「あらあら、何だか素敵な予感がしちゃうわねぇ。」
「ほら、向こうで彼女がお待ちかねみたいよ。」
「う、うん・・・じゃ、さようなら、ジェロッドさんと・・・おねえさん。」
「本当に素敵ね、若いって。あなたにはまだまだピンと来ないでしょうけどね。」
「とにかく、大歓迎だわ。またわからない事があったら何でも聞いてちょうだいね。」
「あら、いいお返事だこと。じゃ、その調子で次回作も楽しみにしてるかね。」
「こっちの話よ。」