第44話 キーライムパイ
・・・トントントントン・・・トントントントン・・・
・・・トントン・・・トントントントン・・・
「・・・ふぁーぁ・・・」
「おはよう。・・・あ、起こしちゃった?」
「ううん。」
「ごめんね、でも今日は大事な日だって聞いてたから・・・」
「ううん、気にしないで。」
「今日の朝食は何だろう?」
「んーとね、ちょっとお洒落にフレンチトーストにしてみたの。」
「わぁー美味しそう。じゃ急いで支度して来るよ。」
「うん・・・。」
「わっ!チェスくん・・・見違えちゃったね。」
「そうかな?どう?似合ってる?」
「うん・・・とっても・・・」
「うん、とっても・・・頼りになりそう。」
「えへへ。」
そんな訳で・・・
リンダとチェスターの二人の暮らしが始まりました。
無理やりだなぁ・・・うーん・・・無理やり・・・wwww
なんだけど・・・
チェスくんの気持ちはもう十分に理解しているはずのリンダです。
ここらでちょっと・・・流れに身を任せてみれば・・・
何か新しいことが始まるかもしれない・・・
そんな風に思っているのかもしれません。
「おっ!緊張してるか?初出勤。」
「あ、おはようございます!」
「まぁ肩の力抜いていこうぜ。」
「どうせ大した事件は起こらないだろうからな。」
「は、はい!」
うーん、やっぱ制服フェチ・・・制服ってイケメン度3割り増しに見えるマジック!
しかし、チェスくん、初々しくって可愛いです。
予想外にこんな事になってしまって、戸惑っているリンダですが、
このおうちのテラスからの眺めだけは最高だし、とりあえず執筆活動に励む日々です。
一方その頃・・・緊張の初出勤を迎えたチェスターは・・・
「おーい!こら!こんな所で何やってんだ!」
いやー・・・話にはあんまり関係ないんだけどwww
ちょっと『活躍するお巡りさん』みたいな写真撮ってみたいなーと思ってしまったもので。
「まーた、こいつらだ。」
「ハンクさん、どうしましょう?止めに入りますか?」
「ん?どうせバカだから気が済むまでやらしとけばいいよ。」
「お疲れさまでした!」
「おぅ、よかったら祝いがてらどっか飲みに行くか?」
「それが・・・今日はちょっと・・・」
「ただいま!」
「あれ、お帰りなさい。」
「どうだった?初勤務は?」
「ん?それがねー・・・」
こうやって一日の出来事を話し合うって、何だかカップルぽいですね。
「もしもし?ロバート?うん、ありがとう。何とか無事に終わったよ・・・え?今日?」
「ね、夕食の後、出掛けようか?」
「・・・え?どこに?」
「それがね、ロバートが・・・」
「それって・・・ロバートくんだけ?」
「どうだろう?もしかしたらおじさんも来るかも。ボーリングだって。」
まぁ、うちの展開的にはおじさんも来ます。
が・・・
ぶっちゃけ・・・展開が面倒なのと・・・www
話の流れ的に、ジョンとリンダには、あんまり喧嘩ってして欲しくないので・・・
まぁまぁ、そう言わずに・・・www
つか、やっぱロバートは仕組んでましたよね、この流れ。
そりゃ、一応、ロバートの中ではジョンとリンダの関係って、
ほぼ確定だと思うけど、まだ決定的な確証はない状況だと思うので・・・
やっぱ複雑な心境なんだと思います。
「あれ?リンダさん一緒に来なかったんだ?」
「うん、今晩は男の子だけで楽しんでおいでって。ロバートによろしくって言ってたよ。」
「そっか・・・。」
「あ!やっぱり、おじさんも一緒なんだ?」
「うん、まぁな。」
てことで・・・野郎どものボーリングナイトとなりました。
「しかし残念だな。」
「ん?何が?」
「いや、せっかくの週末だしさぁ、リンダさんと一緒に過ごしたかったんじゃないの?」
「・・・ん?何の話だ?」
「もう、ロバート。そんなんじゃないって言ってるのに。」
「えー、でも一緒に暮らしてんだろ?それって・・・同棲じゃね?」
「・・・ど・・・同棲・・・?」
「あれ?親父・・・知らなかったの?こいつって今さぁ、リンダさんと一緒に暮らしてるらしいよ。」
「・・・へ、へぇ・・・そりゃ・・・そりゃまたいきなりな話なんだな。」
「だろ?そういや、この間、スターライトショアに行って来たんだよな、写真見せてやれば?」
・・・これ、どうなんでしょう。
付き合ってるとかならまだしも、同棲ですものねぇ。
やっぱジョンは相当、動揺すると思うんだけど・・・
まさか、ここで『リンダは俺のもんだーっ!』なんて取り乱す訳にもいきませんし・・・
「あー、あったあった!ほら、これ。よく撮れてるでしょ?」
ジャジャン!
「へ、へぇ・・・しっかし・・・お前たち・・・いつからそうなんだ?」
「いつからって言うか、この間、リンダさんのうちに泥棒が入っちゃってさ。」
「ど、泥棒・・・!?そんな事が・・・それで、リンダは無事だったのか?」
「うん、泥棒には逃げられちゃったけどね。今、全力で捜査してるところ。」
「へ、へぇ・・・で、それがどうなったら同棲に繋がるんだ?」
「それで一人じゃ心細いだろうと思って・・・思い切って誘ってみたんだ。」
「・・・ふ、ふーん・・・てことは・・・
まさかチェス・・・ずっと好き・・・だったとか?」
「うん・・・まぁ。そうみたい。」
そうみたいって・・・
ずいぶん軽いノリで爆弾を落としまくる純朴青年ですが・・・
でも・・・これで・・・
普通なら・・・二人の関係は完全に終わってしまった事になると思います。
普通なら・・・ね。
「・・・トリ・・・これって・・・」
「ごめんね、いきなり変なこと頼んじゃって。」
「でも・・・」
「トリまで引っ越しちゃったら・・・わたし一人ぼっちになっちゃう・・・。」
「なーに言ってんの。チェスターくんといい感じなんでしょ?」
「・・・いい感じって言うか・・・でも本当にいいの?こんな大事なことわたしに任せて。」
「うん。ガンサーに聞いたらリンダに任せるのが安心だって。」
「一応、管理人が居るみたいだし、何かあった時のために預かってくれる?」
「・・・うん、わかった。・・・トリ・・・向こうでも元気でね。」
「・・・リンダ・・・しんみりしてるところ悪いんだけど・・・」
「もう一つだけ、お願いがあるの。」
「ほら、この家には世話になったし・・・」
「せめて、ここを出る前にガタついてるところくらい直して行こうと思ってさ・・・」
「それで、いつもみたいにコナーさんにお願いしたんだけど・・・」
「いつものケーキ屋さんがお休みでさぁ・・・」
「ほら、私って料理とか全然出来ないから・・・」
「リンダって料理得意でしょ?それでね・・・」
「コナーさんってキーライムパイが好きなのよ。いつも修理をお願いした時にお出ししてるの・・・」
「てことで・・・作ってくれないかなぁって・・・。」
これまた、都合のいい展開なんですけど・・・
嵐の前に、もう一度・・・
二人の心を通わせておきたいなぁという見え透いた演出です。
「ご苦労さまでした。大変だったでしょう?」
「いえ、久々に手仕事が出来て楽しかったですよ。」
「はい、じゃ、これいつものお楽しみ!」
「では、いただきます。」
「どうぞ召し上がれ。」
「しかし、トリさんたちがフランスに引っ越しとは、寂しく・・・」
「あれ・・・?」
「どうかしました?」
「このキーライムパイ・・・いつものと違わないですか?」
「えぇ?やっぱりわかります?」
「というか・・・これは・・・」
リンダのキーライムパイだ・・・
「えへへ、実はうっかり買い忘れちゃって・・・リンダさんにお願いしたんです。」
「やっぱりコナーさんくらいのキーライムパイ好きには、違いなんてすぐわかっちゃうものなのねぇ。」
「何かいい事でもあった?」
「え?」
「さっきから鼻歌うたってるから。」
「ううん、別に・・・何もないよ?」
「そうだ!そういや、今度ね、一度うちで食事しないかって・・・」
・・・プルルルルル・・・プルルルルル・・・
「家族で食事って言っても、別に変な意味じゃないからさ・・・」
「え?う、うん・・・もうちょっとで夕食出来るからね。」
「っていうか電話・・・また後で話そ?」
「うん・・・」
「もしもし・・・」