第35話 逃避行
「いい陽気だな。なぁ?信じられるか?」
「サンセットバレーなんか、もう冬だってのに。嘘みたいだな。」
信じられる訳ない・・・/
今日のテーマソングは『Parachute - Kiss Me Slowly 』です。
いい曲だし素敵過ぎるロケーションだし・・・最高に楽しく撮影が進みました!
「どうした?まさかホームシックとか言わないでくれよ?」
「ううん・・・そうじゃなくて・・・」
あなたとわたし・・・
夢みたいな場所で・・・二人っきりだなんて。
ー二週間前ー
「あれ?どうかした?」
「ううん・・・ちょっと寒くて。」
「ここはわりと冷えるだろ。暖炉付けてやろうか?場所が問題だけど・・・」
「ううん、大丈夫・・・」
「何か・・・他にも悩み事?新作どうしようか悩んでるとか?」
「・・・そうじゃなくて、クリスマス・・・どうしようかなって思って。」
「おじいちゃんもトリも、出掛けるみたいだから・・・」
「もうクリスマスか。ついさっきまでお盆なんて話してたのに。
さすがに・・・うちもクリスマスは何かするみたいだし、ちょうど大事な試合もあるし・・・。」
「もちろん!そうじゃなくてね・・・
せっかくだから、わたしもどこかに出掛けようかなって考えてたの。寒いし。」
「じゃ南の島かな?いいなぁ・・・俺も一緒に行きたいよ。」
「へへへ、残念でしたーっ!」
「スキー?」
「うん、ブラッドショーさんが一緒にどうかって。」
「うーん、長期で出掛けるのはちょっと厳しいかな。その時期は大事な試合があるし・・・母さんと一緒に行けばどう・・・」
「・・・あーっ!!!大変!!!!」
「言うの忘れてたけど、私、その頃って・・・出張なの!」
「・・・出張?」
「うん・・・今ね、大事な取材任されてて・・・どうしよう・・・」
「別に・・・一人で連れてってもらうからいいけど・・・行っていい?」
「あぁ・・・そうだな・・・どうする?」
「そうねぇ・・・ブラッドショーさんと話してみるわ。」
「せっかくだからロバートは行きたいでしょうし、ね?」
「行けるなら何でもいいよ。」
「マスター・・・とりあえず、この方に一杯、高い酒を・・・」
「いやだなぁ、コナーさん。話ってそんな面倒な事なんですか?」
「あぁ・・・そう・・・ちょっとな。」
・・・一生に一度だし・・・
「頼む・・・今回だけ・・・・・・アリバイ協定を使わせてくれないか?」
「えぇ・・・?本気ですか?」
「・・・どうしても・・・ちょっと・・・その・・・出掛けたいんだよ・・・」
「でも・・・やっぱ・・・ほら・・・その・・・色々・・・な?」
「まったく・・・」
「頼む!・・・これまでどんだけお前のアリバ・・・」
「はぁっ・・・・・・」
「やっとだ!これでようやく対等な立場になれるー!!ついに・・・ついにコナーさんが!」
「・・・おい?」
「ついにコナーさんも男になるんですね!
・・・あぁっ!これまで弱み握られてどんだけビクビクしてたか!」
「いいっすよ!もちろんっすよ!!完璧なアリバイ工作!!!任せて下さい!」
「・・・なんか・・・すまんな。」
「いいからいいから!楽しんで来て下さい!」
「旅行・・・?」
「ちょうど色々重なってさ・・・少し自由が利くんだ。」
「でも・・・」
「って言っても、二泊くらいしか無理だけど・・・」
「だけど・・・そんなことしていいのかな・・・」
「一生に一回くらい・・・いいだろ?」
「・・・うん!」
「コナー様ですね。本日から二泊でお間違いないですか?」
「えぇ、そうです。」
「かしこまりました。ではお部屋へご案内いたします。」
「・・・わぁ・・・」
「・・・なんて素敵なところ・・・」
「・・・いいのかな・・・こんなことしてて・・・」
「いいんだよ・・・一生に一回くらい。」
わたしもあの時は・・・
一生に一回くらい・・・無茶したっていいかなって・・・思いました。
「こんな所で寝てて、暑くないのかな。」
「このホテルで飼ってる犬らしいな。」
「ふふふっ、のんびりしてていいね。」
青い空、どこまでも碧い海、心地いい潮風・・・
しなきゃいけないことなんて一つもなくって・・・
ずっと二人でこうしていれたら・・・
「・・・水上スキー?なんだか怖そうだもん。」
「平気だよ、ちゃんと教えてやるから。」
「あ、あの・・・ゆっくりお願いします・・・初めてだから・・・」
コソッ「慣れて来たら・・・」「わかってますって!」
「ちょ・・・早い!早いってばー!」
ずっと二人でこうしていれたら・・・
そんな風に思ってしまうのは、やっぱりいけないことなのかな。
「綺麗だね。」
「・・・ん?」
「寝てる?いっぱい遊んで疲れちゃったかな。」
「ずっと・・・このままだったらいいのになって・・・」
「・・・うん。」
「こんなところでまで仕事しなくてもいいじゃないか。」
「うん・・・そうなんだけど・・・」
「前から浮かんでたアイデアが形になりそうで・・・」
「まさか本格的に執筆するつもりじゃないよな?」
「もちろん・・・ちょっと考えをまとめるだけ・・・」
「何食べようか?」
「名物はブイヤベースだってホテルの人が言ってた。」
「じゃ、それにしてみるか。」
「勝てる気がしないんだけど・・・」
「やっぱり海が近いだけあって美味しいね。」
「これでリンダのキーライムパイがあれば完璧なのにな。」
「そんなの、帰ったらいくらでも作ってあげるから。」
「本気で帰りたくないけど・・・
リンダのキーライムパイは捨てがたい・・・だったら越して来るか?」
「ふふふっ、それもいいかも。」
「どうした?浮かない顔して?もしかしてそれ不味い?」
「ううん、そうじゃなくて・・・これとっても美味しいよ?ちょっと飲んでみる?」
「いや。じゃどうしたんだ?」
「・・・あっと言う間だったな、って。」
「そうだな、まさかこんないいところだと思わなかったよ。サンセットバレーの海が最高だと思ってたのにな・・・」
「ううん!悪いけど、サンセットバレーの海が最高だよ?」
「うん・・・じゃもう一泊するか?」
「・・・え?」
別に急いで帰る理由なんてないだろ?
そう・・・あなたとわたし・・・夢みたいな世界で二人っきり・・・
急いで帰る理由なんてない・・・
あの時は・・・わたしもそう思いました。