第34話 移ろいゆく町
「おかあさん、ご飯まだー?学校遅れちゃうよー!」
「もうちょっと・・・ちょっと待ってね。」
「クリスチャンはそんなこと言ってる暇あったら着替えたらどうだ?」
「いいの!今日はこれで行くんだから!そんなことより、ごはんまだぁ?」
私は、ミッシェル。
夫のジョンと次男ロバート。
長男、クリスチャン。
今日も一日が始まりました。
私たちはリバービューで出会って、そして結婚しました。
そりゃ・・・実を言うと・・・予想外の妊娠ではあったけど・・・
クリスチャンという宝物に恵まれたのは、わたし達にとって幸運な事です。
だけど、私はそれまで大家族に囲まれて暮らしていたから、
いきなり結婚して全部一人で家を任されるのは、色々戸惑った事もあります。
だからって訳ではないけど・・・今でも料理は苦手。
「・・・あーっ・・・大変!!焦げてる!」
「どうしよう・・・時間ないのに・・・」
「あー・・・学校・・・遅れちゃう・・・おとーさん!お腹空いたよう・・・」
「よし!しゃーない。」
「今日はもう簡単な物でも食べて、とりあえず学校に送るよ。」
「ちょっと待って、すぐに何か作り直すから・・・」
「いいって。ほらクリス、今日はこれでいいだろ?」
「食べられるなら何でもいいよ!わーい!ジャムパンだー!」
もう・・・せっかく作るって言ってるのに・・・
そりゃ私が悪いんだけど・・・なんかムカつきません?
「じゃ、行って来るよ。」
「おかーさん、行って来まーす!」
「え、あの・・・行ってらっしゃい!」
「・・・気をつけて・・・。」
こうして慌しい朝が過ぎ去ると・・・
子供の世話に・・・洗濯、掃除、買い物・・・
もうずっと家のことばっかり!
クリスチャンが生まれてから、ずっーとこの調子。
自分たちが選んだ道だけど・・・
たまに、こんなはずじゃなかったのにな・・・って思ったりもします。
ほんのちょっと・・・
ほんのちょっとでいいから、もっとゆっくりしたかったなって。
「あぁ・・・疲れた。」
だけど必死だったから・・・
ちゃんといいお母さんにならなくちゃって・・・
そうしたら、あっと言う間に月日は流れていきました。
「おふくろ、ちょっとクリスと出掛けて来るよ!」
「行ってらっしゃい。」
「ロバート、宿題やったの?」
「え?今ちょっと忙しい。」
次第に子供たちは大きくなり・・・家にはもう二人っきり。
長い間・・・
長い間、必死で夫婦をやって来たんだ・・・今更、話すことなんてないだろ?
俺だって、この家の借りを早く返したくて必死だった。
子供たちもきちんと育て上げなければって、ずっとそればっかりだった。
昔から体を動かすのは得意だったけど、
キャプテンになってチームを引っ張るのは正直、大変だったよ。
『あなたはいいわね、好きなことを仕事に出来て。』
俺だって・・・頑張ったんだよ。
「・・・ミッシェル・・・?」
「・・・すぴー・・・すぴー・・・」
「帰ってたの?母さん、また寝てるんだけど。」
「あぁ・・・体の調子が悪いんだろ。」
「それより親父・・・飯・・・腹減ったよ。」
「よし!急いで何か作るからちょっと待ってろ。」
「えーっ・・・ピザでもいいよ?」
「お前の好きなシチュー作ってやるから。」
ロバートは、いつからこんな冷めた目をするようになったんだろうな。
何一つ不自由なく育てたつもりだったのに。
まぁ・・・難しいお年頃・・・ってやつだよな・・・?
また・・・
最近、帰っても誰も居なさすぎじゃね?
一応、俺って・・・多感なお年頃ってやつなんだけど・・・
まぁ・・・別に飯さえあればそれでいいけど・・・。
「は?冷蔵庫まで空っぽかよ・・・クソッ・・・」
「腹減った。」
「おう、ロバート!だったら何か残り物でも食ってけよ。」
「最初からそのつもりだって。」
「なに?誰も居ないのか?」
「居ないね。」
「あれ?おふくろは?」
「仕事始めたんだって。伯母さんの紹介で。」
「へぇ、それはよかったな。」
「そう?こっちは腹減って死にそうなんですけど。」
「まぁ、そう言うなよ。飯くらい、いつでも食わせてやるから。」
「で、親父は?」
「さぁ。最近たまに出掛けててよくわかんない。」
「ふーん、役員とか会議とか色々あるからな、忙しいんだろ。」
「・・・浮気かな?」
「は?まさかwwww親父が浮気だって・・・ウケルwwwww」
「でも・・・そんなの・・・わかんねーだろ?」
「なに?あの二人喧嘩でもしてんの?」
「そういう訳でもなさそうだけど。」
「多感なお年頃ってやつだねぇ、ロバートくん?」
「うるさい!」
「その花って・・・コーネリアさんに?」
「うん・・・あと類稀な声の持ち主だった人に。」
「おじいちゃん・・・元気かな。」
「どうだろう・・・あの様子だとちょっと心配だな。リンダは?大丈夫か?」
「うん・・・わたしは大丈夫・・・明日でも行ってみようかな。」
「ガンサーの機嫌が悪くない事を祈ってるよ。」
「ロバート・・・居たのか、そうだメシ・・・どうしよう・・・」
「いいよ、兄貴のところで食って来たし。」
「そうか・・・悪かったな。」
「親父って最近、忙しいの?」
「ん・・・?何が?」
「仕事だよ。よく出掛けてるし、忙しいの?」
「あぁ・・・まぁ、会議とか役員とか・・・色々やる事あって・・・。」
「ふーん。で、なんか用?」
「・・・いや。」
「ごめーん、遅くなっちゃった!」
「・・・おかえり。」
「仕事がね、最近なんだか忙しいみたいで抜けられなくって。」
「最初は不安だったんだけど、意外と私向いてるかも。今日もね・・・」
「ミッシェル・・・」
「なぁに?」
「・・・いや、何でもない。」
「あっそ。」
「そんなことより、お腹空いたわ。何か残り物ってあったかしら。」
「・・・ないぞ。」
「え?何か言った?」
「いや。」
ー・・・ピンポーン・・・ー
「・・・居ないのかな。せめてお花だけでも・・・」
「・・・おじいちゃん!こんな所に居たんだ。」
「・・・なんじゃ。」
「お花を・・・持って来たの。」
「おじいちゃん・・・」
「・・・調子どう?」
「あぁ・・・あんまり良くないのう。」
「・・・だよね。」
「儚いもんじゃ。」
「うん・・・。」
「失って初めて気付くとよく言うが・・・」
「本当にそうじゃのう・・・。」
「あら、ご精が出ますこと。」
「トリさん!」「ふふふ、元気?」
「何度かそっち訪ねてみたんだけど、いつも留守だったから・・・おじいちゃんどう?」
「ん?ガンサー?旅に出掛けたのよね。」
「旅?」
「ほら・・・思い出の詰まった家だから・・・あんまり居たくないのかもね。」
「そっか・・・でも旅に出掛けるなら、ちょっとは元気そうだね。」
「でもねぇ、あんな陰気な家に二人っきりってのもちょっと不気味なのよ。」
「・・・確かに広いお屋敷だから持て余しそう。」
「居れば居たで機嫌悪いばかりだったけど、居なくなっちゃうと寂しいなんてね。」
「ほんとだね・・・」
「でね、私達も旅行に出掛けようかなって話してたの。リンダも来る?」
「ううん、まさか。旅行ってどこに行くの?」
「一応、フランスに行ってみたいなぁって。」
「フランス!素敵だね。」
「リンダは?今年のクリスマス、誰かと何か予定あるんでしょ?」
「さぁ?どうでしょう?」
「リンダって誘惑的なシムだったよね?」
「そうだけど・・・この町って既婚率高過ぎるんだもん。」
「確かに・・・じゃ・・・奪っちゃえ!」
「・・・ご・・・げほっ・・・!」
「・・・何てこと言うのよ、トリってば。」
「え、だってうちも何だかんだで略奪したんだよ?」
「そうなんだ!でも残念ながらわたし・・・まだ好きな人って居ないんだ。」
「あらー、お眼鏡に叶う男性居なかったか・・・確かにね、小さな町だし。
じゃ、やっぱりリンダも一緒に行こうよぉ?」
「ううん、次の作品のこと考えなきゃいけないし。それにね・・・」
「湖の町・・・バーで置いてけぼりにされた恨みはまだ忘れてないからね。」
「おほ・・・おほほほ・・・そんな事もあったわね。
あら、なんて美味しいカボチャパイかしら。リンダってホント料理上手だわ!」
「調子いいんだから。」
「あぁ!!本当に美味しいカボチャパイ!食べないんだったら貰っちゃうよ?」
「・・・ふふふっ。」