第7話 緩やかな加速
「うーん・・・」
「うーん・・・」
「・・・素敵な人・・・だったなぁ・・・」
「・・・ダメだこりゃ・・・。」
「何考えてんだろ・・・私・・・。」
「・・・。」
「・・・ダメだ・・・気分転換するしかなさそう。」
「やぁ。」
「こんにちは。」
「美術館って難しいイメージあるけど、ここのはわかりやすくていいね。」
「そうですね、どちらかというと近代アートが中心みたい、ここは。」
「あれ?これとか・・・どっかで見たことあるような・・・。」
「あぁ、これは映画のポスターにもなった写真だから・・・」
「ね、よかったらこの後一緒にお茶でもどうかな?」
「えぇ、若くして亡くなってしまって本当に残念・・・って・・・」
「・・・え?」
「美味しいコーヒーの店知ってるんだ、よかったらどう?」
「・・・。」
「・・・あの・・・。」
「ここからすぐ近いし、歩いて行くにはちょうどいい天気だしさ。」
「・・・それは・・・どうでしょう・・・。」
「はいはいはい!ここは出会いスポットじゃありませんからね!」
「ちょっと、俺は彼女と話してる・・・」
「はいはいはい!チャラ男はナイトスポットにでも行った行った。しっしっ!!」
「ちぇっ、何だよ・・・。」
「まったく、最近の若い子ってすぐあぁなんだから。」
「え、えぇ・・・あの・・・」
「あなたでしょ?今度引っ越して来た人って。」
「そうなんです。」
「私ね、ここで学芸員してるの。」
「そうなんですか・・・正直・・・ちょっと助かりました。」
「でしょ、多いのよね、ここをナンパスポットか何かと勘違いしてる子。」
「それにしても、あなたって結構アートに詳しいのね。」
「えぇ・・・まぁ。ここは近代アートが中心の美術館なんですね。」
「まぁね、一応、近代美術館だし。それに古典作品はリバービューの美術館が独占状態なんだもん。」
「・・・そうなんですか?」
「なんか向こうに名士ってのが居るらしくて、財力では全然全く到底足元にも敵わないのよ。」
「・・・へぇ。」
「私、トリって名前なの。よろしくね。」
「ちょっとあなた。」
「・・・なんだ。」
「ロバートまた宿題忘れたんだって。」
「・・・そうか。」
「・・・もうっ、聞いてるの?」
「どうしろって言うんだ。」
「ちょっと捕まえて来てよ。」
「・・・そんなに簡単に捕まるわけな・・・」
「たまには父親らしいことしてくれたっていいじゃない。」
「・・・。」
「ふふふ、何だかいい気分転換になったかも。」
「なんかしょーもない映画しかやってないな。」
「うーん・・・そうだね、どうしようか。」
「そうだな・・・じゃビリヤードでもしに行くか。」
「おい!こら。」
「ゲッ・・・。」
「あ、あじさん!こんばんは。」
「よう、チェス!」
「お前達、宿題やったのか?」
「もちろん。」
「で、ロバートはどうなんだ?」
「・・・え?宿題?まだだけど・・・明日休みなんだからいいじゃん、別に。」
「あれ・・・」
「おねえさん!」
「じゃ遊ぶのは宿題終わってからにしなさい。」
「は?冗談だろ?」
「とにかく一回家に戻るんだ。」
「こんばんは。」
「あら、チェスター君、こんばんは。」
「おねえさんも映画観に来たの?」
「ううん、美術館に行ってたの。」
「気分転換にね。」
「・・・あ、もうロバートには会った?」
「え?まだかな・・・?」
「じゃ、紹介するね。おじさん、ちょっとだけロバート借りていい?」
「なんか俺、呼ばれてるみたいなんだけど。」
「・・・仕方ないな。」
「僕の大親友のロバートだよ。」
「初めまして、リンダです。」
「・・・どうも。」
「こんばんは。」
「・・・あら・・・こんばんは・・・」
「・・・素敵な夜ですね。」
「・・・ん?あぁ、やっぱり作家さんは言うことが違いますね。」
「・・・そんな・・・。」
「俺もそんな風に気の効いたこと言えたらいいんですけど。」
「・・・。」
「よし・・・1、2の3だぞ。」
「え?」
「・・・いち・・・にの・・・」
「さんっ!!」
「あ、こら!ロバート待ちなさい。」
「ロバート、ちょっと待ってよ・・・」
「早くしろって・・・」
「逃げられたか・・・。」
「あの・・・ジョンさん・・・」
「はい?」
「・・・なんだか・・・お邪魔しちゃったみたいでごめんなさい。」
「いいんですよ、あの年頃を週末の夜に家に縛っとくなんて無理な話なんですから。」
「・・・でも・・・」
「本当に気にしないでください、リンダさんのせいじゃありませんから。」
「・・・息子さんですか?」
「えぇ、ちょうど反抗的な年頃みたいで。」
「・・・そうですか。」
「あいつとは仕事で入れ違いになることが多くて、どうしてもね・・・。」
「ジョンさんて・・・お仕事何されてるんですか?」
「一応、スポーツキャリアに就いてるんです。」
「もう年なんで結構きついんですけど・・・」
「・・・そんなこと・・・」
「あいつが成人するまではと思って何とかやっています。」
「・・・それは・・・」
「・・・それは・・・素敵なお父さんなんですね。」
「・・・え?えぇ・・・。」
「・・・さて・・・じゃ帰るとするか。獲物は捕り損ねたけど。」
「ふふふ。」
「では・・・。」
「・・・えぇ・・・あの・・・」
「・・・ごきげんよう。」
「・・・?」
「・・・。」
「リンダさん。」
「・・・はい?」
「・・・こんなこと聞くのって失礼かもしれませんが・・・」
「・・・?」
「リンダさんて確かツインブルックから越して来たんですよね?」
「・・・えぇ。」
「・・・それにしちゃ・・・なんて言うか・・・」
「その話し方ってリバービューの方面じゃないですか?」
「・・・え?」
「いや・・・勘違いならすいません。」
「・・・いえ、あの・・・」
「・・・確かに、昔、リバービューに住んでいましたから。」
「やっぱりそうか。」
「・・・そんなにわかるものですか?」
「あぁ、うちはお義父さんがそっちの人なんでね、何となく・・・。」
「・・・そう・・・ですか。」
「変なこと聞いてすいませんでした。」
「・・・いいえ。」
「それじゃ・・・ごきげんよう。」
「・・・ごきげんよう。」